国立競技場建設プロジェクト

全ての人に認められる
スタジアムを目指して

#02設計(建築)

石原 佳剛

YOSHITAKA ISHIHARA

工学研究科 社会開発工学専攻 修了/2003年入社

愛知県出身。中学時代は野球部、高校時代はバスケットボール部に所属していた。現在も地域の草野球(ソフトボール)に参加している。6ヶ月の育児休暇を取得した経験を持ち、休日は家族とアウトドアを楽しむなど、アクティブに過ごす。

※内容は取材当時のものです

石原 佳剛の画像

石原 佳剛

YOSHITAKA ISHIHARA

工学研究科 社会開発工学専攻 修了/2003年入社

愛知県出身。中学時代は野球部、高校時代はバスケットボール部に所属していた。現在も地域の草野球(ソフトボール)に参加している。6ヶ月の育児休暇を取得した経験を持ち、休日は家族とアウトドアを楽しむなど、アクティブに過ごす。

※内容は取材当時のものです

PHASE01

青天の霹靂

「石原、ちょっと一緒に来てくれるか」。上司にそう告げられ、石原は国立競技場建設プロジェクトの打ち合わせに参加した。その席で拝命したのは行政協議担当。建築法規に係る仕事であるが、過去に経験したプロジェクトとは勝手が異なり、聞き馴染みのない言葉ばかりであった。石原は入社以来、建築設計(意匠設計)としてのキャリアを歩んできた。デザインの観点から建物の設計を行うクリエイティブな仕事である。ところが任されたのは畑違いとも思える未知の役割だった。

「初めは『どう進めれば良いのだろう』と、任命された役割を果たす術が分かりませんでした。これまでを振り返ると、学校やオフィスビル、マンションなど、自らの希望もあり、当社内では中・小規模の案件に携わることが多く、いわゆる大規模案件には縁がないキャリアです。国立競技場の建設は私にとって、初のビッグプロジェクトでした。ところが任されたのは専門とする意匠設計ではなく、苦手と感じていた行政協議担当。戸惑いもありました」

全ての建物は法律や地域の条例、都市計画などに則り、法令を遵守した形でなければ建設することができない。国立競技場の建設も、建築基準法に則るのはもちろんのこと、自然豊かな周辺環境との調和を目指し、神宮外苑地区の都市計画にスタジアムを落とし込むことが求められた。しかしながら、それらの法令は全ての個別案件に対応しているわけではなく、案件ごとに解釈を行う必要がある。JV他社と共に提案したプロポーザル案を実現するため、各行政機関と協議しながら、法令に則した建築となるよう調整を図るのだ。そのうえで各種申請を行い、ようやく工事着工が認められる。行政協議担当に求められるのは、そうした複雑かつ多岐にわたる法令と、構想される建築の折合いを付けることである。

「建築基準法など一級建築士としての知識はあるものの、私は法律の専門家ではありません。まして、大規模な建物をつくるために必要な法的手続きなど、誰に何を聞けば良いのかも分からないような状態でした」

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PHASE02

国立競技場のデザインと関係法令を照らし合わせる

競技場の設計図を読み、専門書や参考文献を調べて法的整理の構築を進めていく。ところが、これだけの大型スタジアムであるため、押さえるべきポイントが山のようにあり、思うように作業は進まない。また本件は国家プロジェクトであり、法令手続きは、遅滞なく正確に、そして誰が見ても疑問が残らないものでなければならない。専門外の領域であるうえ、細心の注意が要求される仕事。石原は腐心を続けていた。

「プロポーザル案のデザインを実現する。そのために、関係する法令は何があるのかを洗い出し、参考文献などをいくつも読み込み、関係法令に適合しているかを確認していきます。しかし、そうした文献も全てを網羅しているわけではありません。各分野の専門家と意見交換を重ね、判断が難しい箇所については所管する行政機関へと赴き、意見を仰ぎながら協議を進めます。ときには、オリンピック・パラリンピック競技大会後にどのように使われるかも想定しながら。その内容をもとに、慎重かつスピーディーに申請を行っていきました」

慣れない仕事ではあったものの、次第に石原は、そんな環境を前向きに捉えられるようになっていく。その原動力となったのは、あくなき向上心だった。

「初めのうちは手探り状態で苦労しましたが、その分、学べることが多くありました。例えば様々な行政機関に4年間で延べ200以上もの各種申請を行いましたので、社内外問わず各分野の専門家に数多く出会うことができ、あまたの知識を吸収することができました。これまでの業務ではほとんど関わることのなかった行政機関の方々にご指導いただけたのも、大きな財産となりました。困難な仕事であったからこそ、自分の成長の機会へと昇華できたのだと思います。大変ながらも充実した毎日でした」

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PHASE03

プロジェクトでの学びを、将来に活かす

石原の奮闘の甲斐あって申請は無事に通過していき、2019年11月、国立競技場はスケジュール通りに竣工を迎えた。石原は今までにない高揚感を味わった。

「雄大にそびえ立つ国立競技場を見て、自分が携わった案件の偉大さを改めて感じました。これまで大規模案件には縁がなかったため、大人数を巻き込んでプロジェクトを進めた経験はほとんどありませんでした。右も左も分からないようなところからスタートしましたが、多くの関係者と共に、プロジェクトを完遂できる喜びは、何にも代えがたいものだと実感しています」

同時に、石原の心に大きな変化があった。

「社内はもちろんのこと、本プロジェクトの発注者や所管行政のご担当者、JV他社の方々など、関係者に恵まれました。携わった皆様の知識や人柄に触発され、行政協議担当として大規模案件に携わることの苦労の中にも醍醐味を味わうことができました。その結果として、現在所属する『設計品質部 法規計画室』への異動を希望するに至りました。当部署は、建築法規の専門チームとして、設計部門のみならず社内各部署を支援する役割を担っています。プロジェクトの始まりからお客様への引渡しまで。その役割を全うするには、これから経験を重ね実績を積み上げていかなければなりませんが、国立競技場での経験が間違いなく活かされると確信しています」